【2-1-1】弥兵衛平湿原弥兵衛平湿原はこんなところ(その1)
吾妻連峰は東西に連なる西吾妻火山群と南北に連なる東吾妻火山群とに分かれている。
東吾妻火山群は今なお山腹から噴煙を上げている一切経山(1949m)をはじめ新しい火山が連なっているのに対し、 西吾妻火山群は大変に古い火山で、最高峰の西吾妻山(2035m)の山頂までアオモリトドマツを中心とする 針葉樹林で覆われ、更に連峰の北側および南側山腹には深い渓谷が刻まれている。 弥兵衛平は西は西大巓から東は家形山に至る東西約10kmにおよぶ西吾妻火山群のほぼ中央に位置する 広い尾根上に発達した湿原である。(地図の白線で囲んだ部分) 弥兵衛平付近の地図(昭文社:山と高原地図11「磐梯・吾妻・安達太良」2004年版より)
上の図のほぼ中央にある東大巓から左下隅にある西吾妻山までは、尾根がなだらかで広く、大小の湿原が点在し、美しい池塘や可憐な湿原植物が彩りを添え、東西の縦走路として多くの登山者をひきつけてきた。
弥兵衛平は東大巓の西方の緩斜面に発達しているが(左図)、東大巓の北方の明星湖付近に広がっている湿原(地図では弥兵衛平湿原となっているが、私たちは明星湖湿原とよび、東大巓西方の湿原と区別している)とともに一大湿原地帯を形成している。
右の写真は弥兵衛平の植生復元のページの最初に掲載した1965年8月のものである。(多少色補正した)
平坦なところでは池塘が大きく円形に発達し、多くの湿原植物が性格の異なる群落をつくり、
それらがモザイク状に組み合わさって湿原を構成している。
ここでは紫褐色のスギバミズゴケなどがマット状に盛り上がり高層湿原の小凸部を形成し、
他の部分では小凹地ができるなどして湿原表層に複雑な微地形がつくられて、多様な湿原植物の生育環境となっている。
湿原内の池塘には白い穂をつけたミヤマホタルイが多く見られ、また一部の池塘の中には県の絶滅危惧種の
ホソバタマミクリや県と国の絶滅危惧種に指定されているヒメミズニラが生育しているところもある。
写真の池塘の縁に見えるスゲはヤチスゲであるが、ときにはこれが池塘を埋め尽くすほどの群落を
つくっているところもある。
ヤチスゲとよく似た植物にダケスゲがある。
山形県内では吾妻山の高層湿原が唯一の生育地で、県および国の絶滅危惧種になっている。 ヤチスゲと似た環境に生育するが、この植物が見られる池塘は吾妻山全体でも数個しかなく、 湿原の乾燥や登山者の踏みつけによって永久に失われる可能性も危惧されている。
左の写真はダケスゲ同様に吾妻山の湿原が県内唯一の産地で、県および国の絶滅危惧種となっている
ミガエリスゲ(タカネハリスゲ)である。茎の先に下向きの小さな穂が小数ついている。
湿原を歩けば必ず踏みつけてしまうだろう。
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