【3-1-1】堀立川遊水地堀立川遊水地奇談![]()
平成5年の7月,山形地質学会の実地研修が斜平山(なでらやま)で行われた。
その帰路,一行がたまたまこの遊水地工事の現場にさしかかった。餅は餅屋,という言葉があるが,第六感が働いたと見え,
車から数人が降りて現場に立ち入ったのである。
そして彼らは巨大な池ののり面に異様な紋様の地層を見つけた。それは波状の紋様を描く地層で,今から1万~2万余年前 氷河期のウルム氷期時代の地層と判明した。更に池の底に黒く露出した泥炭層上に,多数の埋もれ木や樹木の果実を見つけたのである。
これらも同時代の森林の跡であることが分かった。ちなみに樹種といえば,アカエゾマツ,ツガの一種,チョウセンゴヨウ マツなどで,今北海道の大雪山の森林を思わせるような樹林がこの地に存在していたのだ。
このような貴重な遺跡を市民に知らせようと,新聞記者を伴い現地説明会が行われたのは9月の上旬であった。 この工事の施工主は山形県の建設事務所ということで,4人ほどで報告かたがた保存について陳情した。 この時応対に当たった課長,係長は丁寧に話を聞いてくれた。ところが思わぬ構想が話に出てわれわれは唖然としたのである。 遊水地の壁面はコンクリートのブロックで覆い,底面には排水装置を施し,土盛りしてテニスコート,ゲートボールコートなどを造る。つまりスポーツ公園構想である。 従って,壁面の氷河期時代の地層を保存することは難しい。また,池の底面は土盛りによって覆われ, 森林や埋もれ木を残すことは難しいとのことであった。 そのご,建設省に出張の際陳情などしてくれたが,結局将来説明版を近くに立ててはということで終わってしまった。 ![]() 平成8年工事は急速に進展した。真ん中に突き出ていた工事用の道路も除かれ,いよいよ長方形(南北に長い)の 遊水地の全貌が現れてきた。勿論自然の楽園は根こそぎ取り払われた。 ある日訪れたとき,一羽のアオサギが上空を舞いながら,しばらくして飛び去っていくのを見た。 塒(ねぐら)を失った彼らはどこへ行くのか,こんなことが日本全国で起こっているのかと思うと,胸が掻きむしられるようである。 ![]() (石栗正人:「吾妻つうしん」69号・1997/1月号に掲載の論稿です。写真は2003年12月。) (編集部注:スポーツ公園構想は2004年時点で断念となった。) |