【4-1-1】馬場谷地湿原

問題の発生・公開質問



1998年7月28日
林野庁(森林生態系保護地域担当課) 御中
環境庁(国立公園担当課) 御中
秋田営林局(森林生態系保護地域担当課) 御中
前橋営林局(森林生態系保護地域担当課) 御中
磐梯朝日国立公園管理事務所 御中
米沢森林管理センター 御中


「山形県自然保護団体協議会」
幹事団体「出羽三山の自然を守る会」
                                              会長 岩浪 満
「吾妻の森と緑のトラスト運動」
                                              代表 高橋敬一
「吾妻の自然研究会」
(旧称 原生林里山水田を守る置賜ネットワーク)
                                              代表 吉益悦子
                                                          【上記連絡先】
                           「吾妻の森と緑のトラスト運動」代表 高橋敬一
                            山形県米沢市中央4-3-17(Fax  0238-23-4659)


吾妻連峰の白布峠から馬場谷地に至る登山道整備結果に関する公開質問状(依頼)

吾妻連峰の白布峠から馬場谷地に至る
登山道整備結果に関する公開質問状(依頼)

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前略
 昨年秋から暮れにかけて標記登山道の「整備」が営林局により行われましたが、今般、当団体が調査したところ、あまりにも無惨な自然破壊となっており、ご質問申し上げます。
 1995年2月に吾妻山周辺森林生態系保護地域が設定され、その目的は秋田営林局資料にあるとおり、「原生的な森林生態系を保存することにより、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、森林施業・管理技術の発展、学術研究等に資する」ためで、その設定範囲は不充分ながらも、かけがえのない国有林を未来の人々に豊かに引き継ぐ為の第一歩と評価していました。
 そして、湿原や池塘を、これ以上の荒廃から守るために、関係者が連携協力し合っていくことが今後の課題の一つとなっていました。


 標題にある、山形県と福島県の県境にまたがる、白布峠から矢筈山を経て馬場谷地に至る登山道は、磐梯朝日国立公園の特別地域で、森林生態系保護地域でもあり、保護地域設定小委員会の中でも「吾妻山周辺において、ブナ林が原生的な状態でまとまって存在するところは白布峠周辺しかない、この地域をはずすと、設定の意味が半減する」との見解が出されたぐらいに重要な地域です。
 1997年7月14日に福島市で行われた「吾妻山森林生態系保護地域バッファゾーン整備計画に関する調査検討委員会」(秋田・前橋営林局開催)で説明のあった、標記登山道および馬場谷地の木歩道整備については、保護地域の趣旨を十分理解した秋田・前橋営林局が施工するのであり、信頼できる内容になるものと期待していました。
 しかし、今般調査を実施してみて( 別紙調査書 参照)、下記のような数々の疑問点が生じましたので、それぞれの項目について具体的な調査資料とともに1998年8月31日までに、上記連絡先「吾妻の森と緑のトラスト運動」代表:高橋敬一まで書面でご回答くださるよう、よろしくお願いいたします。


1 重機使用などについて

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 今回の登山道「整備」では、白布峠登山口から矢筈山を経て馬場谷地に至る長さ約2,000m間の登山道を、平均幅2.5mで(広いところは4m)重機を使用して道を作ったため、貴重な植物が全て伐採され、またはなぎ倒されています(アオモリトドマツ、ブナ、ダケカンバなど)。そしてところどころに伐採木の捨て場があり、本来の登山道は見る影もなくなっています。
 樹木などの障害物で重機が入れなかった箇所の登山道では、重機が登山道の脇を通っていますが、まさに、原生林破壊の怪物が通った跡のように、見るも無残な状況となっています。
 そこで以下の点についてお伺いしたい。

 (1) 林野庁、秋田営林局、前橋営林局、米沢森林管理センターに対し

  1. 砕石での「舗装」、重機使用の登山道拡幅、重機走行のための登山道外の伐採は営林局が計画実施したものか、それとも施工業者が勝手に行ったものなのか教えていただきたい。
  2. 営林局の計画による場合は、このような施工方法が森林生態系の保護とどのように整合するのか教えていただきたい。
     特に、登山道外に重機走行のため広範囲に伐採することは森林生態系保護地域の理念に全く相反すると思われるのだが、どのような見解なのか教えていただきたい。
  3. 工事施工の計画書及び工事内容の詳細(施工業者、契約内容、施工内容、検査年月日、施工金額その他本工事に関わる詳細)を教えていただきたい。
  4. 竣工検査を実施した時に実際に現地を調査したのか、調査したならどのような調査結果なのか教えていただきたい。
  5. 現在の状況について問題ありと認識しているのか、問題なしと認識しているのか教えていただきたい。
  6. 無惨に破壊された植生の回復について具体案を考えているのか教えていただきたい。
  7. 施工業者が勝手に行ったものである場合は、業者に対しどのような指導を行ったか、あるいは、行うつもりであるか教えていただきたい。

 (2) 環境庁、国立公園管理事務所に対し

  1. 特別地域でのかかる重機使用による形状変更、重機走行のための伐採等を承諾していたのか教えていただきたい。
  2. 承諾していたなら特別地域の趣旨とどのように適合するのか、その具体的な理由を教えていただきたい。
  3. 承諾していないなら、営林局の施工についてどのような見解を持っているのか、教えていただきたい。
  4. 現在の状況について問題ありと認識しているのか、問題なしと認識しているのか教えていただきたい。

2 馬場谷地の木歩道について

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 吾妻連峰の高層湿原や池塘は瀕死の状態にあることは先刻ご承知のとおりかと思います。馬場谷地についても例外ではなく、これ以上の荒廃と裸地化をストップするためには、登山道をできるだけ湿原内に入れず、近づかない、遠巻きに眺めるという方法をとりながら、早急に裸地化部分の復元作業に取り組む必要があります。
 ところが、今回の馬場谷地湿原における丸太輪切り施工は、保存・復元どころか、反対に、ようやく生きながらえてきた湿原を無惨にも破壊するもので驚くばかりです。
 そこで以下の点についてお伺いしたい。




 (1) 林野庁、秋田営林局、前橋営林局、米沢森林管理センターに対し
  1. 丸太輪切施工(直径40cm~50cm、長さ60cm程度の唐松の輪切り)が従来の木歩道よりも湿原保護のために適当である根拠を教えていただきたい。
  2. 高層湿原の湿地帯で、泥炭層を丸太輪切施工により攪乱し泥状にした結果、すでに20本ほどが浮力により浮かんでいるが、これも予想していたことなのか教えていただきたい。
  3. 丸太輪切りを埋め込んだ場所は、湿原の回復が不可能となってしまったが、そのような施工が妥当である根拠を教えていただきたい。
  4. 馬場谷地東側では従来の登山道が湿原の端を巻くように存在していたにもかかわらず、あえて、湿原を破壊して湿原の真ん中に丸太輪切りを埋め込んだのはいかなる理由か教えていただきたい。
  5. 馬場谷地の案内掲示板が、わざわざ湿原内に湿原を破壊して設置してあるが、湿原を避けてその入口付近に設置することが容易であるのに、あえて、このような場所に設置した理由を教えていただきたい。
  6. 丸太輪切りの周囲の湿原の破壊状態からして、湿原内にも重機が入り込み丸太を重機で設置したものと思われるが、このような工法が湿原の保護とどのように適合するのか教えていただきたい。
  7. 馬場谷地湿原は、乾燥化の傾向が見られ心配していたのであるが、このような高層湿原にわざわざ排水溝を設ける理由を教えていただきたい。
  8. 丸太輪切りの現状について問題ありと認識しているのか、問題なしと認識しているのか教えていただきたい。
  9. 湿原の回復について具体案を考えているならどのような内容であるか教えていただきたい。

 (2) 環境庁、国立公園管理事務所に対し

  1. 馬場谷地湿原について、国立公園内の高層湿原として、どのように保存すべきと考えているのか教えていただきたい。
  2. 特別地域である馬場谷地湿原の湿原の真ん中に、従来登山道でもなかった場所に、湿原を破壊して丸太輪切りを埋め込むことについて承諾したならその理由を教えていただきたい。
  3. 営林局の丸太輪切り、案内板設置、排水溝設置についてどのような見解を持っているのか教えていただきたい。
  4. 丸太輪切りの現状について問題ありと認識しているのか、問題なしと認識しているのか教えていただきたい。

以上、十分に現地を調査の上、誠意ある回答をよろしくお願いいたします。